■8/12(月)
頭がズキズキする・・・高山病か?
いや・・・体が火照っているし、咳も出る・・・これは・・・。
風邪・・・なのか?
ここは涸沢のキャンプ地、今日は前穂高岳北尾根へのアタック当日だ。
前日は特に問題なく北穂高岳東稜をやったのだが。。
4:00起床、ザイルパートナーの田口さんに額に手を当ててもらう。
「すっごく熱あるよ。」
微熱だと思っていたが、想像以上によくないのか?
フラフラの足取りで涸沢ヒュッテに向かい、体温計を貸してもらう。
測ってみると38度7分。
なんということだ、高熱ではないか。これではアタックは到底無理だ。
5:00開業の診療所に向かい、診察を受ける。
診断結果は風邪、2日分の薬をいただいた。
テントに戻り、状況を田口さんに伝え、1日停滞することにする。
薬を飲み、水をがぶ飲みしてシュラフに潜り込む。
いまは水分をたくさん出して、風邪のウィルスを体外へ出さなければならない。
目を覚ますと昼前になっていた。
汗を随分とかいたようで幾分と体調が良くなったようだ。
ヒュッテで体温計を借りて測ってみると、36度3分。
熱はすっかり平熱を取り戻したようだ。
その後、体調はグングンと回復し、夕方には完全回復と言える状態になった。
そして、翌日アタックすることとなった。
連日すごくいい天気なのに、ここまできて前穂高岳北尾根をやれないなんてもったいない。
体調が良くなってほんとよかった。
ここで、前穂高岳北尾根についてご紹介しよう。
前穂高岳から北東方向に派生する北尾根は、涸沢、奥又白どちらから見ても、とても美しい印象的なフォルムで、日本三大岩稜のひとつにも数えられている。
登攀対象のバリエーションルートとしても人気が高い。
■8/13(火)
4:00起床。
体調は良好だ。簡単に食事を済ませ、アタックの準備を始める。
昨日と比較して若干の雲は出ているが、十分な晴れと言える天気だ。
5:00出発。
五・六のコルへと向かう。
事前情報では夏道が出ており、ストックやアイゼンは不要とのこと。
途中までは雪渓があるがキックステップで問題なく登れる。
雪渓を少しだけ登ってすぐに夏道に入り、踏み跡をたどって難なく五・六のコルへ到着。
五・六のコルの斜面は転落したらタダではすまないほど急な印象で心配していたけど。。
実際に足を運ぶとジグザグに道がついてて歩きやすい平坦な道だったんだな~。
上空を飛行機が通過し、飛行機雲が長い間残っている。
どうやら上空には寒気があるようだ。今日の午後は天候が崩れるかもしれない。
五・六のコルでハーネス、ヘルメット等を装着し、五峰へと出発する。
五峰は特にむずかしいところは無く、四・五峰のコルへと到着。
ここまで来ると先行パーティがいるのが見て取れた。
四峰はルートファインディングを要するルートであり、誤ったルートを進むと進退窮まるそうだ。
四峰の出だしは稜線伝いに登り、これ以上は登れないという状態になったら奥又白側へトラバースするという事前情報を得ていた。
稜線を登っていくと、縦長の大きな一枚岩が行く手を防ぎ、これ以上進めそうにない。
ルートを観察すると、涸沢側にも踏み跡がついていて、事前情報がなければ迷ってしまうことだろう。
僕らは奥又白側回りこんで踏み跡をたどっていく。
すると、踏み跡の前方で別パーティーがアンザイレンして稜線へ向かって登攀中だ。
あれ・・・?四峰でロープを出す情報なんてなかったぞ。。
踏み跡をたどって進みすぎると、稜線へ戻れなくなるのだろうか・・・?
田口さんと相談し、奥又白側へ回り込んですぐのランペ状の岩を登って稜線に出ることにする。
緩やかな傾斜を登っていくと、残置ハーケンが散見され、ルートは合ってそうだ。
これらのハーケンは冬季に使われるのだろうか・・・?と思いながら登っていると、やや難しそうな箇所が現れてしまった。
ありゃりゃ・・・思い切っていけば登れるけど、落ちたら大けがになるかも。。
大事を取ってロープを出し、田口さんリードで稜線を目指す。
欲しい箇所に残置ハーケンがないので、カムで中間支点を取る。
稜線上に出た後は、しばらく稜線伝いに歩き、頂上部直下を涸沢側へ回りこんで四峰頂上に立つ。
稜線を下って、三・四峰のコルへと到着。
いよいよ前穂高岳北尾根の核心部、三峰だ。
※三峰です。画像をクリックして拡大すると、中央あたりにクライマーが2名います。
定着型の山行ということもあり、僕はクライミングシューズを持参していた。
ピッチグレード的に問題ないとしても、ルートファインディングをミスったらグレードなんて簡単に変わるもんだし。
安全に関して念には念を入れた。
3人組の先行パーティが1ピッチ目を登攀中であり、ここで待つとこに。
30分ほど待機し、登攀開始。
1P目(Ⅲ-)土方リード
1P目は中央ルート(Ⅳ-)、左ルート(Ⅲ-)がある。
僕らは迷わず、左ルートを選択した。
左ルートを登っていくと、さらに直上、そして左へと分岐するルートが現れる。
あれ・・・?こんな分岐あったっけ・・・どうしようかな。。
直上ルートは先行パーティがいるし正解ルートなんだろうか?・・・でも、カムをセットしないと厳しそうだ。
左ルートは・・・残置ハーケンが2枚打ってある。
ここを終了点とするのか・・・?いや、まだピッチを切るには早すぎるんじゃないか・・・?
本チャンのルートはホントいろいろ悩ませてくれるよな。
よし、ホールド、スタンスが確かな左ルートを登り、ロープの流れに気を付けよう。
さらに左ルートを選択し、グングンと登っていく。
1ピッチ目の終了点ではまだ先行パーティが後続をビレイしている。
しかたないのでその手前で、残置ハーケン、カムで支点を取ってセカンドを引き上げる。
2P目(Ⅱ+)田口リード
ここでも先行パーティが登り切るのを待つのに随分と時間を費やしてしまった。
ピナクルに確保支点を取り、田口さん登攀開始。
ここは両手を広げたくらいのルンゼだ。
時折、田口さんの雄叫びが聞こえてくる。随分と楽しんで登っているようだ。
3P目(Ⅲ-)土方リード
凹角を直上していくルート。
ホールド、スタンスはガバで安定しており、残置ハーケンも適度な位置にある。
安心して登れて楽しいな。
ついでにクライミングの様子を写真に撮っちゃおう。
(※岩に映っている影は僕自身)
4P目(Ⅱ) 田口リード
3P目と4P目の間は少し歩くため、コンテで進むのがいいだろう。
すこし歩くとやや狭いルンゼになる。
ルートとしては階段状なのだが、よいホールドがちょっと見当たらない箇所がある。
うーん、どうしようかな・・・あ、足元にはよさげなスタンスがあるぞ。
スタンスに足を乗っけてサクッとクリアー。
5P目(Ⅲ) 土方リード
残置ハーケンもないのでカムでランナーを取る。
出だしがハング気味で緊張が走る。
下で見るよりも空間が狭いし、ザックが岩にこすれて動きにくいな・・・。
エイ、と乗っ越す、ほっ、乗り切った。
難しいのはここだけ。
乗っ越してすぐ正面に残置ハーケンが2枚打ってある。
もうひと乗っ越しすれば三峰の頂上だ。
また、このピッチは涸沢側を巻くこともできる。
二峰と前穂高岳主峰とのコルは10mほどの急な岩場の下りだ。
クライムダウンすることも可能らしいが、両側は切り立った岩壁。
転落したら命の保証はない。僕らは迷わずロープを出す。
しっかりとした懸垂支点があったが・・・。
ロープダウンして、セルフビレイに体重をかけ、さあ懸垂下降の準備だ!というときにハタと気が付く。
(あっ、しまった・・・三峰を終えたときにルベルソキューブをぶら下げたギアラックをザックにしまっちゃった・・・。トホホ。。
お、ハーネスにHMSカラビナがぶら下がってる!助かった。
ここはハーフマスト懸垂しよう!)
いろいろな懸垂下降を習得しておいて助かった。
ハーフマスト懸垂できなければ、余計に時間がかかっていたところだ。
懸垂下降で下ったすぐ先は前穂高岳の山頂だ。
僕らは山頂にいた人たちに温かい拍手で迎えられ、思わずにっこり笑顔となる。
山頂で田口さんとがっちりと握手をかわす。
ガスっていたが、僕たちは喜びで一杯だ。
その後、吊り尾根~奥穂高岳~ザイテングラード~涸沢へと下った。
■行程
涸沢(5:00)~五・六のコル(6:05)~前穂高岳山頂(12:00)~涸沢(16:30)
お疲れ~。
よく一日で熱が下がったねぇ
薬を飲み、たくさん水分を摂って、ひたすら横になっていました。
初期段階で素早く発汗療法を徹底したことが、早期回復に繋がったのかもしれません。
ドラマチックな山行だったんですね。
発熱のこと、いま知りました。
さすが、ジムでも山でも熱い男ですね!
ははは、うまいですねw
三ツ峠はどうでしたか?
また今度、聞かせてください。
水根沢は水と戯れる沢なので、雨関係なく楽しめました。
およそ40年前の1月2日に5人で登りました。私はビレーしていてトップが最初からアブミを使たのには驚きましたが、セコンドで登ってみて、やっぱりと思いました。およそ18時間の登攀で前穂につきました。この時の山行は翌日、私の滑落でパーティー全員が遭難となってしまいました。前日の「三峰」がかなり私の体力を奪ったのだと思います。