木戸壁でマルチピッチクライミングを行った。初心者にビッタリの易しいグレード、核心は下り(岩がロープに引っかかる)と噂のゲレンデだ。裏妙義の国民宿舎跡から、途中ヒルを発見してもういるのか・・・とガッカリしながら40分ほど歩いて取付きへ。
『関東周辺マルチピッチルート・スーパーガイド』には4P目がやや難しいとあったので、奇数ピッチを鹿内、偶数ピッチを八重樫で登ることにした。
○1P 25m 鹿内
ボルトがやたら多く打ってあるので安心。ロープがクロスしてしまったのが残念。
○2P 25m 八重樫
こちらもボルトは多すぎるほどあり。ジグザグのため意外に緊張。
○3P 25m 鹿内
直登に近いのでルートが分かりやすい
○4P 20m/5P 25m 八重樫
小ハングと高度感でヒヤリとする。本来切るはずの4Pを見逃し5Pまで登る。
○6P 15m 鹿内
スラブ。特に問題なし。
無事終了点に到着。
時間に余裕はあったが、懸垂下降でロープが引けないなどのトラブルがあったら困るので即降りることに。
2回目の懸垂下降で問題が発生。カンテなので斜めに下降しなければならなかったのに、先に降りた八重樫がまっすぐに行ってしまう。上から右手に4P目の松の木が見えたため、ルートが違うから一度登り返してと叫んだが、そのまま下降してしまった。登り返しをお願いしたり、セカンドをビレイする感じで引き上げを試みたりしたが待てど暮らせど姿は見えず、何かを試みている模様だが会話しても何を言っているかわからない。3時間半が過ぎ、時間的にそろそろ合流しないと日が落ちてしまうことと、不明瞭ながら「もう無理」と聞こえたことから、鹿内も懸垂で降りることにした。
合流した場所は草付きの崖で、松の木から10mほど右にずれている。薮が多く木も腐っていたり脆弱だったりで、松の木まで移動できそうになく、また、このまま下降して無事に安全地点に着けるかもわからない。Pasもぐらぐらの細い木にかろうじて付けている状態。
少し右にトラバースして今よりはましそうな木で懸垂下降するか、もしくは真下2mほどにある大きめの木まで移動するかを相談。下の木まで1本のロープで下降してそこから下の様子を確認し、いけそうだったらさらに懸垂下降することにした。ぐらぐらの木の支点にビビりながら下降したところ、移動先の木に捨て縄を発見。誰かがここを降りている。
結局そこからも下の様子は窺えなかったが、他に方法がなく降りることにした。持っていた7mお助けロープで二重の捨て縄を作り支点とする。
そうこうしているうちに日が暮れていく。ヘッドランプを点け、八重樫から懸垂下降。私が降りる頃は真っ暗になってしまった。降りた場所は少し平坦で緩い坂になっており、歩いて行けるように見える。しかし暗いためここが地面なのか壁の中なのかわからない。松の木に近い高さから下りたとすると地面まであと10mほどあるはずなので、立ち木を支点にロープ1本でもう一度懸垂で下ることにした。
これが正解だった。緩い坂道と思ったそこは、崖で薮岩だったのだ。ロープを1m残すのみのギリギリで着地。今度こそあきらかに下に着いた感覚がする。左を見ると道が続いていて、すぐに取付きに。どうにかこうにか戻れて安堵した。ここで20時。降り始めからなんと7時間半が経過していた。
二人ともほぼ飲まず食わずだったので水分など補給したが、八重樫がとにかく疲労困憊、特に手の力が尽きてバナナを持つのも一苦労な程である。少し休んでから目印を辿って歩く。ピンクテープのそばに反射テープが付けてあるためヘッドランプに次のポイントが光って大変分かりやすく、有り難い。
応用ステップでカモシカ山行を経験した(⇒ 2023/6/3-4 雲取山~三峰山)ためか、焦らず駐車場へと下山することができた。
***** 八重樫視点でのルート間違い後の挙動
下りてもボルトが見当たらず間違いとわかったが、登り返しが面倒なので一旦降りてしまった。そこから登り返しを試みるも登れる岩ではなく、両サイドに下げていたロープが落ちて下の薮に引っかかってしまったので、回収のためさらに下へ。
松の木までトラバースできないかと徐々に左に移動したが、手が滑り元の場所に振り戻された。さらに平坦と思っていた場所が崖で、少し落ちてしまう。登り返しを決意しシステムを組んだが、体力が続かず、時間をかけても登り返せないままに限界を迎えた。
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降りてしまえばなんのことはないルートで、すぐに私も降りていれば短い時間で戻れたはずである。もっと経験があれば早めに登り返してルートを戻したり、降りる判断も迅速にできたかもしれない。こうしたら良かったという点は沢山あるが、下の様子が見えず支点となるものがあるか分からない状態で降りるのは恐怖で、今の我々にはこれがベストの行動だったと思う。あたりが暗くなり始めてからは、とにかく時間がかかっても焦らず丁寧に行動した。話し合いも結構した。
暗闇での懸垂下降や不安定な立ち木の支点、登り返し、懸垂下降から引上げへの切替えなどなど、実践では初めての経験が多く、基礎を学んでいなかったら冷静ではいられなかっただろう。
八重樫は全般的な準備不足やルートミスに気づきながらも降りてしまった点などを大変反省し、山を舐めてましたごめんなさいと言っていたことをここに記録しておく。私も、慎重すぎて判断が遅いなど反省点が多々ある。
さんざんな木戸壁右カンテルートの経験だったが、一夜明けてみれば、反省は多数あれど有意義な経験で楽しかった。それと、現場でコミュニケーションを取れなかったことが時間を要した主原因なので、いずれトランシーバーを買おうと思う。
<行程>
国民宿舎跡8:00~取付き9:00~右カンテ終了点12:30~取付き20:00~国民宿舎21:00
<主な登攀装備>
50mハーフロープ×2、ヘルメット、ハーネス、Pas、確保器、カラビナ、スリング、プルージックロープ、クイックドロー