葛葉川本谷

  • 期間 2013-05-19
  • メンバー L矢田(15期以前)、保岡(32期)、小林(功)(32期)、田浦(32期)、土方(26期)
  • 記録 田浦

 本科の今年度の講習の中で、最初の沢登りのプログラムである。参加者は、目下のところ最も新しい会員である32期の3名であり、いかにも入門者向けの講習という形になった。

下山後の反省会の席で、山行記録の役目をたまわった。ところが、入渓から詰めまで、講師の後を確実に歩き、登るので精いっぱいであったため、「こういう箇所の次にこういう箇所が続いて、この箇所はこのようであった」という遡行ルートの詳細は、覚えていない。さいわい、山行記録には決められた書式があるわけではないということだから、執筆形態にはある程度の自由が許されるようである。実際のところ、ルートの構成は遡行図を見れば分かるし、また先輩諸氏にとっては、葛葉川は既に慣れ親しんだ沢であるから、改めて解説しても退屈なものにしかならないであろう。今回は、私にとって初めての沢登りであったことに免じて、感想文のような山行記録になることをお許しいただきたい。

今回の講習に参加して学んだことは、次の3点である。
1. 「沢登り」とはどのようなものであるか
2. 「沢登りには総合的な技術が必要である」ということ
3. 遡行は苦しい「詰め」で締めくくられるということ

1.「沢登り」とはどのようなものであるか

 沢登りがどのようなものであるか、今回の講習で身を持って体験するまでは、具体的なイメージを持つことができなかった。「沢」という語感から、せせらぎを聞きながら、川面から少し頭を出した岩や浅瀬の小石を踏んで歩くような、のどかな情景を思い浮かべた。しかしそれでは、石に躓いて転ぶくらいの危険はあるだろうが、「総合的な山の技術が求められる」というほどの活動にはならない。そこで書店に行き、沢登りに関するガイドブックを立ち読みした。すると、ほとばしる水に打たれながら滝をよじ登ったり、岩壁にしがみ付きながら深い淵を胸まで水につかって歩いたりする様子の写真が、盛りだくさんに載っていた。このように激しく危険な箇所が本当にあるのか、ルートの中に1~2箇所ある程度なのか、次から次に立ち現われてくるのか。不安は募るばかりであった。
 参加してみて、沢登りとは「浅瀬を歩き、ちょっとした滝を登り・・・」を繰り返していくことなのだな、と理解した。むろん、これは葛葉川に限っての理解である。沢によってルートの構成は様々であろうし、上級者向けのルートは随分異なった趣になるのであろう。それでも、沢登りについて具体的な活動のイメージを持つことができたのは、参加前の状態からみれば、大きな前進である。

2.「沢登りには総合的な技術が必要である」ということ

 机上講習で、講師や先輩方が「沢は総合力」とおっしゃっていた。「そうなのか・・・」と、頭の中ではボンヤリと考えても、なにしろ自分の身をもって経験したことがないのだから、どのような技術がどのように総合した形で必要となるのか、ピンとこなかった。
 葛葉川遡行の体験を経て私なりに理解したのは、まず、滝の壁を登る際、岩登りの技術が基礎として求められるということである。三点確保、ホールドの取り方、フリクションつかみ方・生かし方、体重移動のしかたを、岩登りの講習で多少なりとも学んでいたからこそ、岩の上に水が流れていても、臆せずに取り組むことができた。もし岩登りの経験が皆無のまま沢へ行っていたら、腰が引けるか焦るかして、何度も足を滑らせたことだろう。多少難度の高い箇所では、怖気づいて茫然自失となったかもしれない。私個人としては、今回、体重移動のしかたの欠点を講師に指摘してもらい、遡行中に改善を試みたことで、技術を一つ習得することができた。

 浅瀬を進む際にも、躓かないために、安定した足場、滑りにくい足場を見つけながら歩く技術が必要となる。また、落ちた場合に怪我をしやすい場所では、ロープワークが欠かせない。確かに、沢登りでは総合的な技術が求められる。
 知り合いの某氏は、大学時代に山岳部に入っていて、沢登りも経験したが、卒業後は活動を続けておらず、現在50歳前後の年齢に達している。その方が、まだ登山経験が浅く、岩も沢も体験したことのない若者に、「こんど沢登りに連れて行ってあげよう」と話していた。葛葉川遡行を経験した今の私には、このようなお誘いは非常に恐ろしいものに思われる。自分がメンバーとして沢登りに参加するためには、技術のさらなる向上が必要である。リーダーとして参加するためには、メンバーの安全をも確保できる技術を身に着けていることが必須となる。こうした技術の裏付けなくして、他人様を安易に沢登りへ誘うことは到底できない、と思う。

3.遡行は苦しい「詰め」で締めくくられるということ

 沢を上流まで遡行した後、尾根や登山道へ出るために急登する。この「詰め」は大変苦しい。考えてみれば当然のことだ。谷の底から山の上へ這い上がるのだから、急斜面をよじ登らざるをえない。加えて、登山道として踏み均されていないため、小石や落葉が混じった地面の土が緩く、非常に滑りやすい。足を踏み込んでもズルズルと滑り落ちていく。「三歩進んで二歩下がる」といった調子である。
 葛葉川右岸から三ノ塔尾根へ出た。詰めの最初の部分は、肝を冷やしながら登った。というのは、足場のすぐ脇が谷へ急落する断崖になっているため、足を踏み込んだ緩い土がズルッと崩れたら容易に滑落すると思われたからだ。

 ここで滑落したら、谷底に体が打ちつけられるまでの時間は8秒くらいか、いや5秒くらいか。最初の1秒は「あ、しまった!」と思うだろう。次の1秒は「あ~、やっちゃったな~」と、自分で自分に照れるような思いが心をよぎるのではないか。次の2秒は「助かるか?いや助かるまい」と冷静に状況を分析するだろう。そして最後の1秒は観念し、目を閉じて頭をからっぽにするよう努めるに違いない。
 頭の隅に浮かんだそんな想念を、「余計なことを考えながら歩くのは危険だ」と払いのけながら、苦しく恐ろしい急登をどうにかこうにか乗り切った。

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