自主山行で剱岳の八ツ峰Ⅵ峰Cフェースに行った。今年は取付きまでの雪渓が多く残っているという情報からチャンスであると決行。人気の剣稜会ルートであるが、平日を選んだにもかかわらず取付き点には早朝5時に自分たちを含む4パーティが集まった。いろいろ失敗しながら、登攀に4時間20分、下降に2時間かかり、剱沢BC出発から戻るまで約15時間行動となった。天気にもメンバーにも恵まれ、高揚し続け夢中になった15時間であった。
剱岳と八ツ峰Ⅵ峰
剱沢BCを2時に出発。剱沢雪渓を下り、長次郎谷出合へ約1時間、出合から長次郎谷雪渓を約2時間登り、Cフェース取付き点に5時に到着した。空は明るくなり、剱岳の後ろ姿に朝陽が差していた。
自分たちは三番手の到着。ここで田中リーダーが他のパーティに挨拶をしながらⅤⅥのコルへの懸垂点についての情報を得る。前日に剱沢BCの富山県警の方からの情報を得ていたが、下降ルートの情報が少なく不安を抱えていたところで有力な情報を得ることができた。順番待ちの間にアイゼン、ピッケルを外し、ザックの中へしまう。ギア装着、クライミングシューズに履き替え、補給、日焼け止め等各自準備。1時間程待機の後、6時15分にスタートした。
取付き シュルンドの中で寒い
【1ピッチ目】
トポではスラブ40mⅢだが、残雪が多いため確保支点は雪渓と岩壁の間のシュルンドの足下にあり、30m超の登りであった。田中リーダーがリード、駿谷さんがビレイ。スラブ途中に絶妙なバランスで鎮座している落石にロープが当たって落ちてこないかヒヤヒヤし、冷蔵庫の中のような寒さにブルブルしながら、田中リーダーの登攀を見守る。早く太陽の光を浴びたい。フォローは、二人連続登攀とした。緩め斜度のスラブで、岩は固く安定している。カムを1回使用。屈曲1ヶ所にリボルバーを使用した。1ピッチ終了点に6時55分。後ろのパーティが追いついてきたが、狭い空間で待機いただく。
1ピッチ目/終了点
【2ピッチ目】
凹角フェース40mⅢ。駿谷さんリード。垂直に登る。太陽の光が体に染み渡り、田中リーダーはここでシェルを脱ぐ。駿谷さんは順調に登り、フォローで大野、田中リーダーが続く。2ピッチ終了点の広めのテラスに7時30分。新しいペツルが2本打ってある。ここでも後ろのパーティに追いつかれたが、支点より右側にも広めのテラスがあり、そちらで待機いただく。
終了点
【3ピッチ目】
フェースを右上~左上、左のリッジへ40mⅢ。確保支点から3ピッチ終了点にいる前のパーティのヘルメットが見え、方向を確認できた。ここも積極的にチャレンジする駿谷さんがリード。登り始めは左壁から。2ピッチ目に比べ時間がかかっている。姿は見えない。しばらくして、ビレイ解除の声が、先ほど確認した3ピッチ終了点よりも右方向から聞こえる。ルートミスか?と疑問を抱くが、フォローで大野、田中リーダーが続いた。3ピッチ終了点に8時20分。3人とも難しかったと意見が一致。
後ろのパーティの3ピッチ目リードの方のヘルメットが右下に見えた。トポを確認すると、3ピッチ確保支点から直上にRCCルートの終了点がある。我々はここに到着していた。ルートミスである。RCCルートの先のハーケンを目視するが、数が少なく2ヶ所確認できたがその先は見えない。剣稜会ルートへは草付き10mほど左へトラバースすれば戻れそう。幸い後ろのパーティが剣稜会ルートを登っていたため、ルートミスした旨を伝え、トラバースした先の状況を聞くと、ハーケンはたくさんあるという。トラバース途中にお助け紐らしきもの、ハーケンが見える。RCCルートを登るよりもトラバースが安全と判断。田中リーダーがトラバースルートをリード、駿谷さんがビレイし、剣稜会ルートへと戻り、大野はFIXロープでトラバース、駿谷さんは田中リーダーのビレイでトラバースし、無事剣稜会ルートへと戻った。前のパーティの出発を待ちながら、給水、補給、ルートの確認を行う。太陽の光は強すぎて、とにかく暑くのどが渇いた。
RCCルートから剣稜会ルートへトラバース
【4ピッチ目】
9時15分出発。水平リッジ20mⅡ。有名なリッジのルートだ。大野がリードすべきだったが、自信がない表情を察した田中リーダーから、次の5ピッチ目は先が見えるから大野リードにしましょうと、やさしいお言葉をいただき、再び駿谷さんがリードとなった。トポでは20mで終了のはずなのにロープ半分を過ぎてもまだ声がかからない。ロープ残り5mになったところで、ようやくビレイ解除の声。駿谷さんは5ピッチ目まで一気に登ったようだ。大野、田中リーダーが続いて登る。いざ登ってみると下から見ているときは大違い。これがⅡ級?! こわっ!! 高度感が凄すぎる。リッジが薄すぎる。リッジを過ぎた先で振り返って撮影をするつもりがすっかり頭から抜けてしまい撮影できず。無念… トポの4ピッチ終了点はリッジの終わりのようだが、ここでビレイするのか? 駿谷さんがここでピッチを切らずにその先まで行ったことに納得したが、ロープの流れが悪く、引き上げに苦労していたようだ。4ピッチ(5ピッチ?)終了点に10時10分。
リッジに乗る/リッジを通過した田中リーダー
終了点
【5ピッチ目】
トポではやさしいリッジ25mⅡでCフェース頭と書かれているが、4ピッチ目を長めにとったため、その先10mほどの登りを田中リーダーがリード、終了点に10時35分に到着した。てっぺんなのに大きな感動よりも安堵感とシューズの痛みからの解放感が大きく、集合写真も撮り忘れた。ロープを束ね、シューズを履き替える。給水、補給、忘れていた日焼け止めを塗り直すが、既に手遅れか、顔がヒリヒリする。
10時50分下降開始。「下降点は、歩けるところは歩き、右に進む」という事前情報に基づいて右方向へ進み、懸垂支点を発見した。1回目の懸垂は終了点が見えるという情報も得ており、確かに終了点が見える。ここで間違いない。50mロープ1本でロープダウン。11時05分、田中リーダー先頭で20m程の懸垂開始。終了点が見えるので安心する。
1回目の懸垂点
1回目の懸垂(終了点が見える)
2回目の下降点も右に進むと懸垂支点があった。ハイマツの間からの下降である。今度は終了点が見えないため、50mロープを2本結束しロープを送り出しながらの下降とした。11時35分、田中リーダーが下降する。ハイマツにロープの結び目が引っ掛かりそうだ。ハイマツがなくなるところまで結び目を下げておく必要があると、駿谷さんと大野で話をしていると、下から田中リーダーの声が聞こえた。OKではなく何か言っているのだが、声が飛んでしまってうまく聞き取れない。何度か聞く中で、「1本で3回懸垂」、「ロープ引き揚げて」がようやく聞き取れた。必死にロープを引き揚げ、1本で懸垂下降の準備。ロープはザックの頭に入れ、出しながら駿谷さん先頭で懸垂開始。
2回目懸垂点までの道/ハイマツの間の懸垂点
20m弱下りた地点に懸垂支点があった。ここでも田中リーダーの声は飛んでしまってうまく聞き取れない。このあたりから落石のリスクが高くなる。ここから更に15m程懸垂し、次の懸垂支点。ここでコルにいる田中リーダーの姿が見えた。クライムダウンでコルまで降りられそうではあるが、かなりガレているため、懸垂でコルへ10m程下降する。
3回目の懸垂(終了点が見える)/4回目の懸垂でコルへ
その先もガレは続く。剱沢BCの富山県警の方からの事前情報「Aフェース岩沿いにガレ場を歩き、長次郎谷まで降りる」に従いガレ場を歩く。カニの甲羅の形をした大きな岩があり、そこに懸垂支点があった。ガレ場を歩くこともできるが、甲羅から下のガレ場までなるべく下降してしまおうと50mロープ2本を結束し懸垂で下りた。途中ロープがキンクして何度も絡まる。下りてからは草が付き薄くルートがあるガレ場を少し歩き、ようやく長次郎谷雪渓までたどり着いた。
蟹の甲羅の岩から懸垂/雪渓までのガレ場
<懸垂下降点まとめ>
(2~4は1回では不可能。ロープ回収ができなかったため、3回に分けた)
【1ピッチ】
終了点から一段下がり、右方向の先、岩が切れた箇所のハイマツに懸垂支点。50mロープ1本で20m程下降。お花も咲く草付きテラスの終了点が見える。
【2ピッチ】
草付きテラスを右方向に進み、ハイマツの間に懸垂支点。50mロープ1本で20m程下降。終了点は見えない。
【3ピッチ】
ルンゼ内に懸垂支点。狭いテラス。落石注意。50mロープ1本で15m程下降。終了点が見える。
【4ピッチ】
右下にCフェース取付きが見える。下降するのは左側のⅤⅥのコル。ガレた広めのテラス。落石注意。50mロープ1本で10m程下降。終了点が見える。
ホッと一息、コカ・コーラ。田中リーダーが準備していてくれた。ありがたくいただく。アイゼンを装着しているところへ県警ヘリが飛んできて、我々の上空で止まった。吹き降ろす風がものすごい。無意識にヘルメットを押さえた。ヘリはその先に移動して再び止まった。要救助者がすぐその先にいたようだ。人を降ろしたヘリは一旦引き上げ旋回して再び現場へ戻ってきた。またすごい爆風。二人が救助され、現場には二人が残りロープ等を回収している様子が見えた。雪渓を歩き始めていた我々の上空を再びヘリが通過する際にもまたすごい風。無意識に耐風姿勢をとった。
長い長次郎谷雪渓を下り、剱沢雪渓を登り返す。雪渓が終わり、剱沢小屋までの登りの途中で疲労と安堵により放心状態でしばしぼーっとしながら八ツ峰を振り返り眺めた。剱沢小屋で我慢できず缶ビールで乾杯。剱沢BCには17時に到着した。
<反省点と解決策>
・ギア渡し忘れ
→リードがショルダーラックを持つ(共同装備にショルダーラック)
・懸垂下降時のロープのキンク、絡み
→ロープ先端同士を結束する(結束方法、手順は事前に共有)
→懸垂時ロープバックを使用する(共同装備にロープバック)
・声が届かない
→無線の使用
・ルートミス
→トポ、先行者の観察、確認の徹底。直前打合せ、ルートミス時の対応方法の共有(基本は懸垂下降等の方法で開始点に戻る等)
・下降ルートの調査不足
→インターネット、動画等で事前に情報収集、情報共有
・懸垂下降のピッチ
→終了点が見えている時は1本でなるべく細かく切る
<行程>
剱沢BC 2:00~剱沢雪渓~長次郎谷出合3:10~長次郎谷雪渓~Cフェース取付き5:00
1ピッチ目開始6:15~最終ピッチ終了10:35~ⅤⅥのコル下降終了12:50
長次郎谷雪渓13:40~剱沢小屋16:10~剱沢BC 17:00