今回、我々が向かった旗立岩北方カンテは、登る人がまれな岩壁で、静かなる登攀が魅力のルートである。その分、浮き岩が多くてクラックは脆く、支点は古びた残置ハーケンがほとんどで、A0などは危険を伴うルートでもある。当初、17日から20日にかけて剱岳本峰南壁Aフェースを登る予定であったが、秋雨前線の南下と、北上する台風15号の影響で、天候悪化が予想されていたため、山行日直前に当該ルートに変更した。ちなみに今回は当該ルート自主山行2回目であり、前回は諸事情により二見さんが登攀できなかったルートである。
1日目。西武秩父駅に集合、マイカーで道の駅花かげの郷まきおかへ。雁坂トンネル付近で強い雨に遭遇する。明日の天気は大丈夫だろうか。
2日目。早朝、空を見上げると乾徳山のある北側の空は曇っているが、富士山方面は晴れている。予報は曇り時々晴れ。好天を期待しつつ乾徳山登山口へ向かう。駐車場で身支度を整えて出発。今回は忘れ物は無いだろう?標高を上げるにつれ、雲は徐々に姿を消し、青空が広がっていく。月見岩に着くと、それまで雲の中に隠れていた乾徳山山頂が青空の下に顔を出した。思わず指差して、「乾徳山の岩が見える!」と叫ぶ。頭を垂れたススキが辺り一面に広がり、扇平は秋の気配が漂う。小休止の後、懸垂下降点となるルンゼへと向かう。
(ケルンの場所)
(懸垂下降点のルンゼ)
(旗立岩(懸垂下降点から))
懸垂下降点のルンゼは、山頂鎖場の数十メートル手前にあるケルンが積んである見晴らし場の、すぐ隣にある。場所は登山道に面しているため、見落とすことは無いだろう。今回も前回同様、日本登山大系のトポを持ってきたが、取り付き点までの記憶が残っているため、見る必要は無さそうだ。25mの懸垂下降を2ピッチ行い、岩壁基部へ。ちなみに2ピッチ目の懸垂下降は落石の危険大である。先行した私は、落石に怯えながら物陰に隠れて、後続の様子を窺った。ここから、岩壁基部の樹林帯を北に向かってトラバースしていく。踏み跡は発見できない。しばらく進むと森の中に岩がゴロゴロしている場所を発見。おそらく北方カンテの北側のルンゼであろうと推察し、ルンゼを詰めて樹林帯を抜けると、北方カンテ基部に着いた。
(旗立岩)
各ピッチのリード担当は以下の通り。
1ピッチ目 木村
2ピッチ目 二見
3ピッチ目 木村
(1ピッチ目)
1ピッチ目
今回はリングボルトが1本打ってある取り付き点を避け、北側のルンゼから岩に取り付く。こうすることで、多少はロープの流れが良くなるはずである。取り付き付近のカンテは幅が広く、ラインは如何様にも取れそうに見える。まずカンテ左側を2~3メートルほど登り、右にトラバースし、そこからカンテを直上していく。このピッチは、逆層スラブで、所々ハングしており、腕の力をなかなか抜くことが出来ない。時々A0を使って休憩する。信頼性に乏しい支点に、体を持ち上げるほどの体重は掛けられないので、日ごろのフリークライミングの練習の成果が試される。カンテ上の尖塔直前の難しいハングは、体を右に乗り出して抜けた。カンテ上の尖塔の後部にテラスがあり、ここでピッチを切る。一応、このピッチが核心部。
(2ピッチ目)
(富士山)
(南アルプス)
2ピッチ目
手掛かりに乏しいリッジを数メートル進むと、尾根は幅が広くなり、ルート取りは自由となる。忠実に尾根上をトレースする。広い鞍部でピッチを切る。
3ピッチ目
最終ピッチはとても楽しい。シューズのフリクションが良く効いてムーブの解決が容易で、カムやナッツがセットし易くて安心で、途中、岩壁に飛びつく箇所があったりして、我々の様な初心者も楽しめる。終了点には、古いリングボルト2本と、比較的新しいハンガーボルトが2本打ってあるが、その先も滑落の危険があるので、完全に尾根が終了してる場所でピッチを切った。
(乾徳山山頂)
終了点で二見さんと握手を交わし、荷物を登山道脇にデポして山頂へ。鎖場を越えて、誰もいない山頂へ到着する。青空の下、乾徳山山頂に立った喜びは格別であった。
[行程]
17日 西武秩父駅(18:00)~道の駅花かげの郷まきおか(20:00)
18日 道の駅花かげの郷まきおか(5:30)~駐車場(5:40)~登山口(6:00)~月見岩(8:20)~懸垂下降点(9:15/10:00)~北方カンテ(10:50/11:40)~終了点(15:00)~山頂(15:30)~登山口(18:20)~駐車場(18:30)
[グレード]
Ⅳ級A0(日本登山大系)
[木村所感]
前回よりは技術的に余裕を持って登ることができた上、好天の下、富士山や南アルプスの峰々を背景に登ることが出来て、とても楽しい登攀になりました。
[二見所感]
17日(土)は雨が降って18日の登山道は濡れている。岩肌も西面は乾いていない。1Pのリードをやらせて貰った。西側のリッジから取り付き直ぐ安全の為の軟鉄ハーケンを打ちランニングビレーを取る。錆びたハーケンにヌンチャクを掛け大き目のクラックにカムを取り付ける。足場の位置が悪く、カムに体重をかけていると抜けて数m落ちる。肘を打ち痺れる、擦り傷を負う。暫くレストして西面にトライするもコケで滑る。
再度東面を思案するもイメージが湧かず、選手交代をお願いする。ネットを見ると4級A0~5級-とある。実力的に無理のようだ。登攀技術力及びパワー不足のようだ。焦らずやるしかないが、スキルアップの為の今後の課題はジム通い等今後のトレーニング学習にかかっている。