槍ヶ岳・北鎌尾根

  • 期間 2023-09-15~2023-09-17
  • メンバー L田中(35期)、駿谷(40期)
  • 記録 田中

槍ヶ岳北鎌尾根、無名山塾に入った理由の一つ。
北鎌といえば、「孤高の人」加藤文太郎や「友を捨てるにしのびず」と書き残した松濤明。今回は無雪期ですが心情は一緒です。
計画では9/18下山予定でしたが、コンディションがよく、一日早く下山できました。

【結論】(無雪期北鎌踏破に必要なもの、北鎌コルまでを前鎌と称す)
1.体力
沢登り、高巻き、急登、ルートファインドのための偵察、クライミング、水場がない等々、てんこ盛りなので。
2.ルートファインディング
前鎌は踏み跡が薄いし、あっても間違っている。ルートをミスるとグレードが上がる。
3.グッズ
・沢靴:水俣川を15回以上渡渉するので。
・チェーンスパイク:前鎌には悪い草付きが多い。
・バイル:同上。我々は軽量化のため、ミゾーハンマーを代用した。
4.幸運
・水俣川の水量が股下くらいまでであったこと。躊躇なく渡渉できて時短になった。
・曇り気味であったこと。我々は各自に水5Lで何とか足りた。これがピーカンだったらやばかった。
・パートナーが強力であったこと。体力的に超人で、さらに精神的に仏のように安定していたので。

【詳細】
1.水俣川から千天出合
沢の地形に沿って、渡渉しまくる。15回渡渉した。軽量化のため、自分は沢足袋(後で履き替え)、駿谷さんはラバーソールの沢靴で最後まで通した。
今回、水量が基本的にひざ下、深いところで股下だったのは幸運だった。最初のつり橋も使わないで川の中を歩いて行った。
水俣川遡行無造作に水流の中を遡行できるので時短になった。有名な古いFIXが張ってあるへつりも使わなかったし、難しいところはなかった。2年前はここで敗退していたのに。
有名なへつり

2.千天出合からP2
出合はゴルジュなので高巻いた。ピンクテープが要所にあり、わかりやすい。しかし、高巻き自体は悪く、滑りやすい草付きのトラバースが多く、気が抜けない。
ゴルジュの高巻き3回高巻いてP2取付きに出られる。取付きにはケルンとつり橋の残骸の錆びたワイヤーがあり、すぐ同定できる。計画ではここでテント泊だが、水俣川の遡行が順調で時刻も13時だったため、P2まで進むことにした。
P2取付き自分は沢靴をアプローチシューズに替えて、チェーンスパイクをつけた。
P2取付きから尾根方向に踏み跡がついている。尾根ではさらに明瞭な踏み跡。ただし、倒木で遮られて迂回する箇所が多かった。高度を上げると踏み跡は徐々に
傾斜を増し、木の根にぶら下がりながらよじ登っていく。ここは水平距離700mで垂直距離500m、平均斜度35度強の急登だ。
P2急登P2の肩に2テンがギリギリ張れる個所を発見した。しかし、木の根が邪魔だ。地形図ではP2ピークが横長で広そうなので偵察を試みた。P3とのコルまで偵察したが藪が深く断念。P2の肩まで戻り、幕営した。食事はお湯をかけて食べられるものとし、駿谷さんは尾西のごはんに親子丼の素、田中はスープ春雨。駿谷さんから春雨にカロリーがないことをさんざん揶揄(からか)われた。食事後、駿谷さんは5秒で寝ていた。素晴らしい才能。
P2テン場

3.P2から北鎌コル
夜間は雨模様だったので藪は濡れている。上下レインウェアでスタートした。P2とP3のコルは藪漕ぎで進む。そのうち、P2と同様の急登になり、木登りが始まる。
P3藪漕ぎ樹林帯を抜けるとP3到着。
P3ピークP3からはザレた岩場の上り下りが続き、なんとブルーベリーの群生の中を抜ける。
P4急登水節約とビタミン補給のため、ブルーベリーをむさぼり、かつ、ビニール袋に収穫した。
P3ブルーベリーその後、収穫を続けてビタミンも心も豊かになり、P4到着。
P4ピークP5はP4から体感100m(実際50m)下って登り返したところにハイマツがのった岩峰がそびえる。直前に下降路があるので、また50mくらい下降し登り返すとP5とP6のコルに詰めあげられる。ここが悪い草付きでチェーンスパイクとバイルが大活躍する。ネットでは「微かな草をつかんで滑り落ちないように慎重に登る」とあるが、装備を固めれば、ガシガシ進める。ゼイゼイとなったことは否めない。
P5P6コルへの悪い登りコルからP6への登りは悪いガレ場で、さらに千上沢側に切れ落ちている。コルに古いハーケンが上下に2枚打ってあるのでビレイポイントに使用。途中の儚い立木で確保してピッチを切り、2ピッチでP6に突き上げた。
P6への登りP6から尾根を伝って下降したり巻き込んだり弱点をたどったりしていくと、あっさりと広めのテント場に出た。慰霊碑もあった。P6とP7のコルと考えて先を急ぐと地図と地形が合わなくなり、GPSで確認したところ、先程のP6とP7のコルと思ったところが「北鎌コル」であり、P7だと思っていた目の前の岩峰がP8であることが分かった。P7は知らずに通過していた。ちなみに北鎌コルのすぐ上のバンドには紙が散乱していて見苦しかった。紙は持ち帰ろう。
北鎌コル

4.北鎌コルからP10
P8までは250mの急登。1か所フィックスロープがある。
P8手前FIXルートは明瞭なので体力勝負だ。我々は勢いあまってP8を通過し、気が付いたらP9(天狗の踊り場)だった。
P9天狗の踊り場P9はピークに4テンを2張り、下部に1張りできるところが目印。目の前に独標(P10)がそびえる。
P10独標今日の目標はP9であったが、まだ午前中なので先に進む。基本は尾根通しであるが、乗り越えられないときは右(千丈沢)左(天丈沢)どちらにも踏み跡がついている。右巻きが多いと聞くが両方偵察してルートを選んでいく。P10へはフィックスロープが張ってある悪いへつりを2回右に巻いて20mくらいのⅡ級の岩場を越えるとルートが見えてきて、P10の肩に詰めあげられる。
P10手前のへつり

5.P10から北鎌平
P10からは岩尾根、やせ尾根のトレースだ。今日は槍の穂はガスの中だが、北鎌平はよく見える。今日のゴールだ。
P10から岩尾根この辺から高山症状か喉が渇くし、腹が鳴ってしょうがない。スープ春雨のカロリーではパフォーマンスが維持できないのか。
P13までは明確なピークナンバーはわからなかった。コルにどのルートから下るか、ピークへどのルートから登るか。登ったり下ったりしているとP13についた。
時刻は14時、少しまったり休んでよもやま話に興じた。2テンなら張れるスペースがあり、ここで宿泊しようか悩んだ。電波が入ったのでYahoo!天気で雨雲レーダーを確認すると「16時から雨」との予報。でも、何故かノリノリになっていて北鎌平まで進むことにした。後で後悔した。
P14へP14までは岩尾根通しでルートが明白だが、P15がそびえていて行く手を阻んだ。「巻いてしまえ」とのご神託でP15はすべて千丈沢側を巻き巻きした。踏み跡は遠目には「絶対無理。千丈沢に滑落する!」という感じであったが、近づくと意外にしっかりしていて問題なかった。長かったが。踏み跡を延々たどって踏み跡が尽きるところから上昇した。岩雪崩が起きそうなガレ場を避けてハイマツや岩のリッジ沿いに100m上昇して北鎌平に詰めあげて力尽きた。
北鎌平へ速攻でテントを張り、飛び込んだところで雨が降ってきた。ギリギリセーフ。
駿谷さんは尾西のごはん、自分はスープ春雨を食して睡眠した。

6.北鎌平から槍の穂
もう後200mくらいでおしまいと思うと嬉しい。
槍の穂へ槍の穂へは巨岩帯をすり抜けていってチムニーからアプローチした。
チムニー下のチムニーから3ピッチで槍の穂についた。
槍の穂ガイドさんが「北鎌尾根から来た」と皆さんに説明してくれている。もっと詳しく説明してもらいたい。せっかくなので写真撮影の列に並んだ。
やったね槍の穂は満員で肩の小屋まで行列が続いていた。

7.帰り道
横尾でジュース、徳澤でソフトクリームを食べたことしか覚えていない。

<所感>
○駿谷
北鎌尾根は体力さえあれば大丈夫、といった類の情報がネット上では散見されるが、これはミスリードする表現だと思う。
落ちたら一巻の終わりとしか思えないリッジ上で、脆い岩場と悪いザレ/ガレが連続しており、これらに対して或る程度の耐性がないと普通に泣きだすレベル。気力体力がともに充実していなければけっして来てはいけない場所だと感じた。
実際に我々の登攀中に一人、下山したころに一人が同ルートで滑落していたようだ。もしかすると2021年のこのエリアの地震の影響がまだ残っているのだろうか。
とにかく無事に帰ってこれてよかった。
なお、朝は300kcal程度のどん兵衛、夜は0kcalの春雨で2日半をしのいだ田中さん、下山後は体重が4kg減っていたらしく、この脂肪燃焼力にはたまげました(私は1kg減)。

<データ>

■9/14(木)

信濃大町 18:00
竹のや旅館 18:10 4,800円(素泊まり)
焼鳥とりしん 18:30 焼き鳥が最高

■9/15(金)

信濃大町駅バス 5:15 1,500円、2023年8月から七倉山荘までアルピコバスが開通【祝】
七倉山荘タクシー 6:00 2,400円(4名乗り合わせで600円/人)
高瀬ダム 6:30 なんと高瀬ダムまで2,100円! いままでは信濃大町からタクシーで16,000円かかったのに!
出発 6:45
湯俣山荘 9:00 湯俣山荘は建設中だった。伊藤新道に行く人たちが10名くらい準備していた(人気)。我々は水俣川を渡渉して青嵐荘で情報収集。
出発 9:45
千天出合 11:50
P2取付き 13:00 4テン2張り規模のスペースあり
P2 15:00

■9/16(土)

GPSの高度 地図上の高度
P2 4:50 2,123m 2,150m 我々はP2の肩でテン泊、2テン規模のスペースしかない。
P3 6:00 2,310m 2,337m ルート上に2テン1張り。ピークはルートから離れていた。
P4 6:40 2,480m 4テン2張り、2テン1張りのスペースあり
P5 7:50 2,468m 巻いた
P6 8:50 2,529m 2,540m
P7 9:15 2,516m
北鎌コル 9:27 2,477m 4テン1張りくらい
P8 10:50 2,724m 途中に2テン1張り
P9 11:20 2,744m 2,749m ピークに4テン2張り、下部に4テン1張り
P10(独標) 12:57 2,894m 2,899m 手前に4テン1張りスペースが3か所
P11 13:16 2,887m
P12 13:43 2,873m 2,880m
P13 14:24 2,870m 2,873m 2テン1張り、以降ところどころに2テンスペースあり
P14 15:20 2,881m
P15 2,980m 巻いた
北鎌平 16:17 2,960m 4テン4張りくらい行けるのではないだろうか

■9/17(日)

北鎌平 5:20 2,960m
槍ヶ岳 6:30 3,180m
槍ヶ岳山荘 7:40
出発 8:00
小梨平 14:30 日帰り入浴(14:00-16:00、800円)を目指してひた走った。

 

 

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