夏山合宿の行き先は南アルプス・北岳のバリエーションルート。当初は荒川北沢を古道沿いに遡行する2泊の企画であったが、出発前日に突如発生した熱帯低気圧(そして行程中に台風に変化するという予報)のため沢遡行は避ける判断になった。サブルート案のうち、あるき沢橋から池山吊尾根を登りボーコン沢ノ頭をピークに嶺朋ルートを広河原に下りる1泊2日の計画を採用。急登や雨中の藪漕ぎ・倒木越えなどを経て9名全員で無事に下山し、組織登山ならではの達成感ある山行となった。
■8/11(木・祝)
8:55甲府駅集合。山の日らしく真夏の強い日差しのなか、広河原行きのバスを待つ。バス待ちの間、松本リーダーよりルート変更の伝達があった。約2時間バスに揺られ、11時過ぎに広河原到着。道中で当初下車予定だった鷲住山展望台のバス停を確認し、鷲住山の400mの下降がどれほど大変かと広河原行きになったことで少しばかり安堵している自分に気づいた。
さて、今回のルートは下山まで全く水場が無い。広河原山荘には綺麗なトイレと水道があり、各自水を満タンに調達。装備を整えて11:25に出発した。広河原の標高が約1,500mで、池山吊尾根の登山口となる標高1,250mの「あるき沢橋」まで、約5kmゆるやかな坂道の車道を進んだ。風が心地良い。
登山口で一息ついて、12:50登高開始。いきなりの急登に若干怯む。9名でゆっくりと足並みを揃えながら尾根を上がっていく。途中で二手に分かれ、先行組は池山小屋の状況確認と寝床の確保に向かい、後発組は引き続き確実に歩みを進めていった。2,050m付近のなだらかな尾根は倒木も多く踏み跡が複数。若干迷いつつもピンクテープを見つけて進行。
まもなく空が開けて池山に到着。池は枯れているが中心部だけ草の色が鮮やかで、ついつい中を歩きたくなるのを抑えて周囲を回った。16:00頃から16:50にかけて一同池山小屋に到着。幸いにも先住民が居なかったので我々で小屋を貸し切ることができた。夕飯を食べながら山談義に花が咲き、翌日の計画を確認したうえで、20:20頃就寝。
■8/12(金)
3:00起床。昨晩から雨が降り続けている様子。携帯電話は圏外のままで台風情報なども更新できずにいたが、とにかく稜線を目指して計画通り進むこととした。予定より少し早く準備が整い、雨具を着込んで4:45出発。
6:00頃、黄金色の朝陽が差し込んできた。休憩がてら雨具を脱ぐ。6:15に城峰を通過、小さな表札が木にくくりつけてあるだけだった。7:40、2,660m付近で森林限界を超え、稜線からの景色が一気に広がった。
右に鳳凰三山、左には農鳥岳、間ノ岳、そして北岳山荘の赤い屋根まで一望できた。一同、しばし景色に見とれながら休憩。本日のピークであるボーコン沢ノ頭まであと一息。そこからは庭園のような広い尾根で、膝下のハイマツ帯が続く。時折黄色や白い花を見かけ、稜線歩きを楽しんだ。
9:00、ボーコン沢ノ頭(2,830m)に立った。本日のピークだ。我々の「登頂」に合わせてくれたかのように太陽が出て、ケルンや北岳バットレスを眩しく照らす。岩尾根の力強さに圧倒される。
北岳山頂こそ雲のなかで視界に収めることができなかったが、周囲の景色をひとしきり眺めたあと、下山の嶺朋ルート分岐へと急いだ。ピークを去ってすぐにあたりはガスに包まれてしまい、先程の天気が嘘のよう。「ガスってくると雷鳥が出るよ」という松本Lの話を聞いたすぐあとに、雷鳥が3羽現れた。幸運だ。
2,800m付近の平らな尾根で一息ついたのち、コンパスを合わせ、いよいよ未知の「嶺朋ルート」へ進入した。1972年に甲府市の山岳会・嶺朋クラブが開拓した広河原からボーコン沢ノ頭を結ぶ急登の尾根道で、事前に調べたところでは藪が大変らしい。入口の銀の看板に「水場なし」と明記してあり、緊張しながら下山を開始した。
早速、背丈ほどの藪を掻き分けながらの進行。足元の道はしっかり踏み固められているが、松本Lから赤ペンキや踏み跡に頼らないようにと念押しされた。2,730m付近、尾根の分岐点。このまま踏み跡をたどると大樺沢につながる隣の尾根に乗ってしまうと気づき、コンパスの方向を信じて藪のなかに突っ込んでいった。しばらく道が見つからず、文字通りの藪漕ぎに。先頭の田中さんが四方八方の薮と奮闘して叫んでいる。背丈以上のハイマツのため、枝に乗ってなかば木渡り(?)で何とか進んでいった。尾根は正しいけれど出口が無さそうということで少し巻いてみるとハイマツの切れ目があり、シャクナゲゾーンに。そこから下りていくとやはり左側に巻道があったようだ。
再び尾根に乗った後、2,600m付近からは岩が多くなり、おまけに霧雨が強くなり始めた。濡れた岩場を慎重に下降。一部トラバース区間もある。2,520m付近、左側がやや切れたステップの大きい岩場がありロープを出した。ハイマツを掴んで下ることもできるが、安全のためにロープも使いながら通過。12:20頃、高度2,500mを切ると樹林帯に入り倒木との戦い(ルートファインディング)が始まった。先頭をたびたび交代しながら進行。最初は練習のためかと思ったが、松本L曰く、ルートファインディングをする際には先頭が道を見失えば2人目、3人目が道を見つけ、その人が今度は先頭になっていくことで効率が良いとのことだった。
後半、雨が強くなり足元もびしょ濡れになってきた。急斜面を下りているはずなのになかなか高度が下がらず焦る気持ちもあったが、「今日は広河原の最終バスに間に合えば大丈夫、いや間に合わなくても当初の予定通りもう一泊すれば大丈夫」「大倉尾根に例えるならいま堀山、大倉バス停までの距離がんばろう」等と話しながら、歩みを進めていった。
16:20、最終バスまで20分というタイミングで広河原バス停に到着。昨日の出発以来、初めて他の登山者に出会う。終わってみると嶺朋ルートは毎年手入れがされているようで、上り下り共に赤ペンキが豊富に付けてあった。
ハーネスや濡れたものを急いでザックに押し込んで帰路に就いた。
<行程>
8/11:広河原バス停11:25~あるき沢橋12:50~(池山吊尾根)~池山小屋16:30
8/12:池山小屋4:45~城峰6:15~ボーコン沢ノ頭9:00~嶺朋ルート入口9:35~広河原バス停16:20
<所感>
◯平
当初予定の荒川北沢は分岐の徒渉が心配。尾根ルートへの変更でホッとしたようなガッカリしたような。お盆の北岳とは思えない静かな山行だったのが良かった。
◯高橋
台風襲来にも関わらず山行を実施できたのはサブプランを4案も立案された松本講師の見事な戦略の結果だと思った。それにしても嶺朋ルートはなかなかの悪路で、全員無事に下山できて良かった。
◯鹿内
憧れの泊りのバリエーション登山を合宿で体験出来たことはかなり大きな経験になったと感じています。以下、今後の課題として...
・勝手がわからず装備過多。諸先輩の工夫を真似したい
・持久力と筋力。荷物込みで歩き切れる体力が必要
・自分のペースの維持。周りと比較して焦るとそれだけで心拍数があがる。
◯八重樫
台風が来ている中での初のバリエーション登山。2日目の黎朋ルートは道も悪く、雨の中、無事に下山でき良かった。学びの多い二日間であったが反省すべき事も多い。2日目は残りの水を気にして朝食を抑えたため、途中からシャリバテで最後までボーッとした状態。また余分な装備等で荷物が25kg近くになっており、自分の体力/実力を見極めた上での前準備の重要性を改めて感じた。
◯秋永
登頂よりもバリエーションルートを選び、9名全員で踏破できた喜びが大きい。ピークはあくまで中間地点の一つで、ゴールではないことを学んだ。個人的には、初の縦走(軽量化は成功したものの水3Lでは足りず)・初の濡れた岩場・藪漕ぎとなったが、地形図を頭に入れコンパスも使いながら下山でき、今後の糧になる山行だった。
<最後に>
池山吊尾根は北岳への冬季メジャールート。いずれ挑戦したいという野望を込め、今回リーダーの松本さんが矢田さんと共に登頂した際(2014年年末)にボーコン沢ノ頭から仰いだモルゲンロートの写真を掲げる。