3:00に一ノ倉沢出合のトイレ前に集合した。木村さんはカービバークして折り畳み自転車で出合までアプローチ、田中は前日入りしてトイレ前広場にテントを張った。テントは前回6月上旬の南稜の時は10張り程度あったのに対し、今回は連休なのに自分のみであった。暑さや雪渓後退など季節の問題か、あるいはみんなオリンピックを見ているのか。
日の出は4:40頃なのでこの時間はまだ暗く、ヘッドライトを点けて霧のかかった一ノ倉沢出合を出発した。前回は出合から雪渓をキックステップで登ってアプローチしたが、今回は出合には雪渓がなく岩々した左岸を進む。左岸に壁が出る手前で右岸に徒渉し、右岸に壁が出てくる箇所から夏の巻き道に入った。巻き道を10分くらい進むと一ノ沢出合手前の左岸から雪渓に登れる箇所があり、チェーンスパイクを着けて渡渉し雪渓の上を行く。ヒョングリの滝を巻くフィックスロープを横目に雪渓を進むとテールリッジが見えてくる。前回より雪渓がだいぶ後退してテールリッジが大きく露出している。チェーンスパイクを外しスラブに取り付く。ブッシュ、スラブ、ブッシュと1時間弱で中央稜取付きについた。出合から1時間30分。
以下の登攀は、奇数ピッチ:田中、偶数ピッチ:木村さん。
■1ピッチ目
取付きから奥壁の方にフェースを左上する。ホールド、スタンスとも豊富で問題ない。奥壁へトラバースする前で終了。
■2ピッチ目
奥壁へ2mくらいトラバースして階段状のルンゼを登る。中央稜に戻ったところで終了。
■3ピッチ目
細かいホールドを拾って垂壁のフェースを登る。なかなか悪く、また、高度感もあって緊張する。チムニーの手前で終了。
■4ピッチ目
核心のチムニー。木村さんはチムニーを突破したが田中は左のフェースに逃げた。
■5ピッチ目
20m弱でペツルがあったので切ったが短いので間違ったかもしれない。この辺から草付きになり、古いスリングがリングボルトにかかっている個所が頻出し、ビレイポイントが分かりづらい。
■6ピッチ目
草付きフェースを左上する。支点がなくなり、ロープをどこまで伸ばすかが分かりづらい。
■7ピッチ目
外傾しヌルヌルした悪い草付きをよじ登り、ピナクルで終了。
■8ピッチ目
いきなりクラッククライミング。トライカムを使う。なかなか手強い。
■9ピッチ目
階段状の登山道。
■10ピッチ目
ビレイ点から右のブッシュに踏み跡があり、3m行ったところで上昇する。ロープが直角に曲がり重くなる。コルに出て終了。
左手に衝立の頭があり、5時間30分でクライミング終了。
北稜へは、コルから右へ踏み跡を辿ると新しいアンカーがあり、立派なカラビナが設置されている。
■懸垂下降1ピッチ目
40m。途中は岩の垂壁で終了点はブッシュ。
■2ピッチ目
40m。ブッシュの中にルートが鮮明にある。
■3ピッチ目
25m。ブッシュの中に支点がある。トポでは40mとなっているので短かったかもしれない。
■4ピッチ目
10m。ブッシュの中をコップ状スラブ方向に斜め横移動。
■5ピッチ目
立ち木に設置されている支点の方向に崖を25m下降したが次の支点や踏み跡がないのでルート違いと判断し、登り返した。
同じ支点から逆方向に踏み跡を辿って40m下降。途中、露岩にペツルがあったり、フィックスロープがあって、正しいルートの予感。
■6ピッチ目
50m空中懸垂。ピナクル手前の懸垂点までロープを最大限に延ばした。
■7ピッチ目
40m懸垂下降し、ピナクル手前までロープを延ばしてトラバース。
ピナクルから先は衝立前沢を下降して一ノ倉沢に出る予定だが、いろいろ迷った。
ピナクルから踏み跡を辿り、ブッシュの中を進むと衝立スラブに突き当たった。引き返して左方向にある踏み跡を辿り、最初に突き当たった沢を下降するとまた衝立スラブに突き当たってしまった。再び登り返してさらに左方向の沢を探して下降した。下降するほどに沢が狭く荒れてきてとてもルートとは思えないので、また登り返して高い位置から付近の地形を確認した。先ほど登り返した沢は3本の高い松の木が左右に生えており、確かに衝立前沢であることが確認できたので自信をもってもう一度下降した。30分ほど下降すると一ノ倉沢の雪渓が見えてきて、最後の懸垂下降20mを行い、雪渓によじ登ってやっと涼しくなった。
朝の暗いうちは気が付かなかったが雪渓に割れている個所が多く、恐る恐るルートを選んで出合まで下降し、がっちり握手で終了した。
<補足、所感>
■木村
誰もいない貸し切りの一ノ倉沢、天気予報では上空に強い寒気が流れ込んで午後から天気が不安定となるとのことでしたが、出発から一ノ倉沢出合に戻るまで天候に恵まれて、とても楽しいクライミングが出来ました。
岩は全体的に頑丈でしたが、核心となるような場所では浮いていることがあり、アルパインらしい面白さがありました。
ルート上には懸垂支点が多数設置されているためピッチを切る場所が分かりにくく、時々ルートから少し外れた懸垂支点に誘導されそうになってルートファインディングが面倒でしたが、それもこのルートの面白さでした。
今回のルートについて、気が付いたポイントを参考まで記載します。
○2ピッチ目について
1.まずトラバースして烏帽子沢奥壁側に行く。
2.ルンゼ状を登る。
3.中間支点のリングボルトを通り過ぎた辺りから、トラバースして中央稜のリッジに戻る。
4.錆びたハーケンの懸垂支点のようなポイントでピッチを切る。
上記3.のトラバースにはフットホールドが見当たらないので、トラバースを諦めてそのままルンゼ状を登ろうとしてしまう可能性があります。また、ルンゼ状にビレイアンカー用の立派な残置支点があるため、そこでピッチを切りそうになりますが、その手前からトラバースします。
上記4.はトライカムでアンカーポイントを補強しましたが、もう少し登ってからピッチを切ってもよいかもしれません。ただし、その先にビレイアンカー用の残置支点があったか覚えていません。
○終了点について
衝立岩北稜の稜線に出て終わりです。そこから左の踏み跡に行けばすぐに衝立の頭、右の踏み跡を行けば北稜の懸垂支点です。衝立の頭からは腐ったフィックスが垂れ下がっています。今回は登りませんでした。
○北稜下降について
北稜の懸垂下降はとても単純です。ネットに情報が多数ありますが、その情報で先入観を持つとルートを外れてしまう可能性があります。ただ単に懸垂下降で出来た踏み跡を辿るだけです。トポでは一部歩く部分がありますがこれを無視して、要所要所にある捨て縄とカラビナで作られたラッペルアンカーを利用して歩かずに全行程を懸垂下降すれば、何も考える必要はありません。ちなみに空中懸垂に使うラッペルアンカーは丈夫な木の根に捨て縄とカラビナが設置されたものです。繰り返しになりますが、とにかく踏み跡を辿る、です。ご参考まで。
○略奪点と衝立前沢について
下山中、田中さんから略奪点ってなに?みたいな疑問を投げかけられましたが、以前調べたことを失念していて、答えられませんでした。略奪点とは<沢が尾根を乗り越えているところ>とのことですが、そのような場所は見当たりませんでした。次回はよく地形を観察したいと思います。
コップスラブのピナクルから衝立前沢に向かい深い藪漕ぎの後に最初に出合う顕著な沢は、衝立沢の枝沢です。これは衝立沢に合流します。懸垂下降用の捨て縄が2、3箇所残置されているのでこれが衝立前沢かと誤認してしまいます。この沢を少し進み、尾根を越えて出合う沢が衝立前沢です。
衝立沢と衝立前沢の間の尾根に大きな松の木が数本ありますが、これが目印しになると思います。アプローチの途中、テールリッジから展望して、衝立前沢の目印しになりそうなものを探しておいて正解でした。
■田中
前回はえらく疲れたテールリッジが今回はとても短く感じました。中央稜は南稜に比べると「まっすぐ」という印象です。4ピッチ目まではトポ通りのルートで分かりやすいです。5ピッチ目以降はどこで切るのが正解か分からないので、なるべくロープを延ばした方がよいです。
無線は有効でしたが、田中の無線機が途中でバッテリー切れになってしまいました。電池の方が長持ちすると聞いたので、次回はそうします。
<行程>
一ノ倉沢出合3:30~中央稜取付き5:00~衝立の頭10:30~衝立スラブピナクル14:00~一ノ倉沢出合16:00
<天候>
深夜:霧、明け方から昼過ぎ:晴れ、夕方:雨