■12/28(土)
奈良田温泉から池山吊尾根の取付き(あるき沢橋バス停)までは、ゆるやかな登りの長いロード歩き。
開運隧道のゲートは閉鎖されていたが、空身でこれを乗り越えて内側から鍵を開ける。ザックをゲート内に引きずり込んでいると、道路の管理者らしき方が車で近づいてきたので軽く会釈して済ます。
池山御池小屋が混むことは予想していたので、とにかく早く着いて寝床を確保するんだという一心で休まずに歩き通す。計画よりも早く、奈良田から5時間半で小屋に到着したが、板の間や土間はもちろん、小屋の扉付近までびっしりシュラフが並んで、既にみんな寝ている。乱雑に置かれたザックやらギアやらをそっと整理して、なんとか寝床を確保する。私よりやや遅れてきた登山者はスペースが無く、小屋の扉から足を外に出すようにして寝ていた。
■12/29(日)
午後過ぎから風速20m超えの予報なので、早めに北岳山荘に着きたい。
ボーコン沢ノ頭までは風も感じずトレースも明瞭である。標高2600mまでは快適な登山。幕営適地も豊富にあり、10張以上は見かけただろうか。
ボーコン沢ノ頭からは風が強まり、ケルンの陰でウェア・装備を整える。
八本歯のコルへはロープを使わず、2回クライムダウンする。
コルを過ぎると、下山者とのすれ違いが多くなる。状況を訊くと、稜線の風は既に強いようだ。吊尾根分岐までのトレースはつけときましたので頑張ってください~と言われるが、リッジをしばらく進むと、もうトレースは消えていた。
さらに3000m付近から標高差で70~80mくらいは股~腰のラッセル。小一時間くらい格闘してラッセルから解放されると、吊尾根分岐までトラバース気味に左上するルートとなる。
このとき最後の下山者とすれ違い、自分は山頂まで行きましたが今からはもう無理でしょう、と言われる。山頂に未練はなく、とにかく山荘までは行くと決めたが、ここからは心細い一人旅となる。
南北に伸びる稜線を乗り越えて西風が吹き降ろしてくるので、斜面からはがされないように四つん這いで雪面にピックを突き刺しながらじわじわと進む。やっとの思いで分岐を越えれば、北岳山荘まで稜線を下るだけだ。しかし、ホワイトアウトのため進むべき稜線の支尾根に迷い込んだような錯覚に陥り、何度も方向確認を強いられた。
ようやく辿り着いた山荘(冬季避難小屋)はがらんとしている。
自分以外に熱源が無いため、全てのウェアを着込んでもまだ寒く、小屋内にテントを張って寝る。明日は北岳で風速18m、明後日は農取岳で風速30m以上の予報。なんとしてでも明日中に安全地帯に入らなければ。
■12/30(月)
暗いうちから小屋を出ると、想定以上の風速を感じる。ひとまず中白根山を目指して登り始めるが、時折よろけるほど風が強い。
この先はトレースも皆無だろうし、農取小屋付近の吹き溜まりでは一人ラッセルになるだろう。いろいろ想像を巡らせると、絶対の自信を持つことができない。ここで撤退を決めた。
山荘まで戻ると、正直なところ、残念というよりも解放されてホッとした。少し休憩し、小屋から綺麗に見える北岳山頂だけは踏もうと再出発する。
すると、皮肉なことに徐々に風が止んできて、山頂に着いた時にはほぼ無風状態に・・・ 振り返って北岳山荘方面を観察すると、コル地形のため風が集まってきているのか、山荘付近だけ雪煙が見える。夜明け前は視界が制限され、どうしてもネガティブな思考になりやすい。せめて明るくなるまで登っていれば、また違う判断になったのかもしれない。
途中何度も振り返って農鳥方面の雪煙を確認しながら、どういう判断があったかなあと考えながら下山する。池山御池小屋を過ぎ、1900m付近の適地でテントを張った。
■12/31(火)
夜中から、寒いのではなく寒気を感じる。あるき沢橋バス停からのロードでは、自分が発熱していることをはっきり自覚し始める。往路(登り)のロードは2時間半程度で済んだところを、復路は下りにもかかわらず4時間もかかってしまった。余裕で間に合うと思っていた奈良田温泉発のバスにぎりぎり乗り込み、下部温泉駅徒歩1分のしもべの湯でしっかり温まることにする。
しかし、翌日1/1から本格的な発熱となり、1/4まで寝込むことになった。
<行程>
12/28 奈良田温泉13:10~あるき沢橋バス停15:50~池山御池小屋18:40
12/29 池山御池小屋5:30~ボーコン沢ノ頭9:00~八本歯のコル10:30
~池山吊尾根分岐12:20~北岳山荘13:00
12/30 北岳山荘4:50~中白根山手前(撤退地点)~北岳山荘6:00-6:30
~北岳8:00~八本歯のコル9:00~ボーコン沢ノ頭10:00
~池山御池小屋13:10~1900m地点14:00
12/31 1900m地点4:10~あるき沢橋バス停5:30~奈良田温泉9:30
<メモ>
○ザック重量:18.7kg
○ガス使用量:200g(イワタニ500T+FIRE MAPLEのヒートエクスチャンジャ付きコッヘル+SOTOウィンドマスターの組合わせ)
○寝具:クローズドセルマット+モンベルシュラフ#3+モンベルシュラフカバー→寒さに弱い自分は標高3000mでは寒すぎてトラウマになるレベル。正月に冬季用シュラフを買ってしまった。
○北岳山荘冬季避難小屋の金属製の階段:滑りやすい形状の氷が雪をかぶった状態で厚く張り付いており、滑落注意。